希望のしくみ/養老孟司 アルボムッレ・スマナサーラ

最近、出版界は新書ブームだそうで、書店にいくと必ず目立つ場所に新書の新刊が平積みされています。仕事帰りに週2〜3度は本屋に寄り道し、なんかオモロい本(漫画)はないかと物色している自分も、ウマウマとこうした戦略に乗せられてしまい、すっかり通勤電車で読む「新書」にはまってしまいました。
小説の場合、物語の進行具合によっては、「続きが気になって仕方ないっ!」、「ここで中断するなんて信じられないっ!」などとなり、歩きながら本を読むなどの暴挙に出てしまうこともあるけれど*1、新書ならば、記述箇所による感情の起伏が比較的平坦なので、一日で1冊読了することが稀な通勤読書に最適なんすね。
というわけで、「バカの壁*2で有名になった養老孟司氏と、スリランカ仏教界長老で日本テーラワーダ仏教協会長老でもあるアルボムッレ・スマナサーラ氏が、仏教、そして日本の社会・文化について語った「希望のしくみ」を読んでみました。
正直言って、「希望のしくみ」というタイトル、帯に書いてある「賢者は真理で一致する」というキャッチコピーには、少々、抵抗を感じるのだけど*3、内容的には、大昔に手塚治虫の「ブッダ」を読んで以来、なんとなく興味を覚えていた仏教を、実生活の中でも応用できる宗教と呼ぶにはあまりに実践的な「教え」として、たいへん分かり易く解説してくれる良書でした。
中でも興味深いのが、「つまらないことは自分でできる」という考え方。「つまらないこと」などと言うとかなりの誤解を受けるのだろうけど、「つまらない=下らない」ではなく、「自分で簡単(つまらない)だと思っている事をやれば、自ずとそれが他人の役にもたつ」という意味らしい。スキルアップだの自分磨きだのセミナーだの、何かというと自分にないものを身につけようと焦るより、まずは、たとえつまらない地味なことでも出来る事からやればいいと、すごくシンプルでなんとも肩の力が抜けた思考法だなぁと、これには、かなり納得してしまった。
この他にも、「生老病死こそ事実」として、「死」や「病」、「老い」といった隠蔽されがちなイメージのある事柄を、決してネガティブにならず、あたりまえの「事実」として受け入れる姿勢を説くなど、ないものねだりが横行しているような近代日本にこそ、まさに必要とされている思考法なんじゃないかと、ナマケモノな自分を棚にあげつつ、かつ自省しつつ、いたく感心してしまいました。
現実を直視し、妄想せず、足るを知る。そんな生き方、素敵です。

希望のしくみ (宝島社新書)

希望のしくみ (宝島社新書)

*1:以前、歩きながら小説を読んでいて、おめおめとカルト宗教の勧誘(バスケのDF並の壁の厚さ)を受けて以来、ウォーキング読書は危険だと認識している

*2:ちなみに未読。この対談を読んで、ちょっと読んでみようかな…という気になりました

*3:なんというか、「本に“救い”を求めている人にぜひとも買って欲しい」なんつー編集さんの色気がチラホラしてしまうもので…。「真理」という単語も、「現実」や「事実」って言葉に比べると、どこか押し付けがましい感じがしてしまう。