タランチュラの千の涙 / Dengue Fever

Cannibal Courtship

Cannibal Courtship

  • アーティスト:Dengue Fever
  • 発売日: 2011/04/19
  • メディア: CD
Dengue Fever、直訳するとデング熱、なんだかすごいバンド名だけどバンドに合った素敵な名前だと思う。このバンドが目指すところのアメリカ発カンボジンアン・ロックには、たしかにデング熱のような抗い難い魅力がある。
Dengue Feverはロス出身のインディー系6人組ロックバンド。ボーカルのChhom Nimolはカンボジア出身の女性シンガーで、Wikipediaによればメンバーがリトルプノンペン(カリフォルニア)のナイトクラブでスカウトしてきたらしい。
この強烈なインパクトを持つバンドの個性は、彼女のボーカルに因るところが大きい。艶やかな声とゆったりとしたビブラートを多用した歌唱法は、声を聞くだけで東南アジア以外のどこでもない雰囲気を醸し出す。どうやら母国カンボジアで「プロのカラオケ歌手」として有名だったというから、日本でいうところの「やたら歌が上手なモノマネ歌手」みたいなポジションだったのだろうか。
母国カンボジアから渡米するまでには色々とドラマがあったようで、彼女が里帰りする様子がドキュメンタリー映画として2007年に公開されている。
Sleepwalking Through the Mekong (2007) - IMDb
決して興行的に成功したとは言えないだろうけど、見た人の評価は高いし、映画のスクリーンショットを見てるだけでもバンドの演奏がカンボジアのライブで素晴らしい熱を発している様子がうかがえる。自国出身の歌手が「かの国アメリカ」でそれなりの成功を納めて錦を飾るといようなドラマもありそうで興味深い。日本語字幕のDVDが発売されるなどまず期待できないけど、機会があればぜひ見てみたいと思う。
以下は同映画のサントラで、Dengue Feverの曲だけでなくカンボジアン・ロックや現地の子どもの歌声なども収録されている。
ちなみに、このエントリーのタイトルにした「タランチュラの千の涙」というのは、この映画のサントラに納められた曲のタイトルを自分が勝手に訳したもので、彼等の曲の中でも1、2を争う出来映えの曲だ。
iTunesだかどこかのレビューで「タランティーノのB級アクション映画で、サングラスをかけた女性がマシンガン片手に颯爽と登場するシーンでかかりそう」とか書いてあったけど、まさにそんな雰囲気で、テンション上がりつつもディレイかかりまくりのボーカルでナチュラルトリップも期待できそうな、なんともサイケな一曲である。以下の公式サイトで視聴できるので興味ある人はぜひ聴いてみてほしい。

DENGUE FEVER - Listen

ついついボーカルのChhom Nimolの個性に目が行きがちなDengue Feverだけど、そのサウンドの軸になるのは中心メンバーのHoltzman兄弟が熱烈なカンボジアン・ロックファンであることが大きいようだ。バンド結成当初、わざわざクメール語で歌えるシンガーを探していたということだし、自分たちの手でカンボジアン・ロックを復興させるというのが彼等の目標なんだろう。
1960年以後、クメール・ルージュにより政情が不安定になり、ロックのような娯楽文化の発展が途絶えてしまったであろうことを考えると、ただただ理想のバンドサウンドを追求した結果以上の意図がうっすらと見えてくるような気がしないでもない。
そうしたカンボジアン・ロック復興の一環なのか、バンドのオリジナルアルバム以外に、Dengue Fever名義で1960年〜1970年初期のカンボジアン・ロック・コンピも出していて、これがまたいい。

Dengue Fever Presents: Electric Cambodia

Dengue Fever Presents: Electric Cambodia

チープなサウンドで曲の構成もワンパターンではあるけど、音の悪さまで含めて全体の雰囲気がすごく魅力的で、なぜか聴き入ってしまう。端的に表現すれば「郷愁ロックサウンド」とでも言おうか。もしかすると、アジア人として自分のDNAに刷り込まれた何かが、こうしたサウンドに自分を惹き付けるのかもしれない。そんな言いようの無い魅力がカンボジアン・ロックにはある。