桐野夏生/ メタボラ
- 作者: 桐野夏生
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2007/05/08
- メディア: 単行本
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長編の単行本として「魂萌え!」から約2年ぶりの本作は、前作が桐野作品にしては意外に後味の良い、映画化やドラマ化にうってつけの作風だったのに比べ*1、なんともやるせない、そして重苦しい読後感を味あわせてくれる、個人的に桐野小説に期待したい要素がぎっしり詰め込まれた力作だった。
桐野作品特有の、セリフの少ない登場人物の独白が延々と続く重苦しい心理描写*2、臭いものには蓋をしろとばかりに、世間の表舞台では取り沙汰されるのことの少ない過酷な社会環境*3、小説に純粋な感動を求める人には、正直、あまりおすすめできない一冊ではある。
メタボラを読んでいて、ふとラース・フォン・トリアー監督の映画「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を思い出した。ビョークが主演の同作は、主人公のあまりに悲惨な境遇に、「見ていて辛い」とか、「良い映画とは思うけど心理的に受け付けない」等、あまり前向きに支持する人が少ないように思うが、この小説も、きっと同じような印象を持たれるのではないかと思ったのだ。*4。
セルマはあまりに馬鹿正直すぎたし、ギンジもジェイクも、あまりに後先を考えなすぎたのかもしれない。けれど、物事が思い通りに行かないかもしれないと分かっていても、決して走ることを止めない清々しいまでの真っ直ぐさは、結末が喜びに満ちていないとしても、その裏側にとてつもない希望を隠し持っているようで、なぜか自分には魅力的なものに思えたりもする。理屈じゃない何ものかの大事さ、ありきたりな言葉で表現すれば、そんなところだろうか。
どこぞで読んだ著者インタビューでは、次作は「国家」がテーマらしいけれど*5、ぼちぼちミロシリーズの続編とか、どうすかね。次回作も期待しております。