貴志祐介「青の炎」を読んでモヤモヤ

黒い家を読んでからすっかりはまってしまった貴志祐介氏の「青の炎」を、通勤電車読書で3日ほどかけて読了。電車の中で読書していると、猛烈な睡魔に教われる事が多々あるので、ペースとしてはまあまあいいほうだろうか。
この「青の炎」、文庫本の解説でも指摘されているように、犯罪の過程を実行前からたどっていくという、通常の推理小説とは逆の展開をする倒叙推理小説ということなんだけど、個人的な読みどころは、犯罪を計画・準備するまでの心理描写より、頭脳明晰で責任感の強い主人公が、殺人という行為をきっかけに後戻りのできない袋小路に追い込まれてしまうその過程と、クライマックス寸前で思い知らされる主人公に対する周囲の人々の暖かい想い、そんな辺りにあるのかなと思った。
とくに、全てが警察にばれてしまい、友人や恋人(恋人というほど恋人期間も長くないのだが…この辺が、また切ない)、また家族に対する責任感から、ある選択を決意するくだりは、涙なしには読めないす。ちなみに、このクライマックス付近、ちょうど朝の通勤電車で読んだんですけど、もしや俺目赤くなってんじゃね?くらいの勢いで感動してしまい、寝不足気味の頭がすっかり目覚めたはいいが、なんだかモヤモヤモヤモヤと色々なこと考えてしまいまして、まったく困りました。こうゆう小説は、朝の通勤電車では読まないほうがいいすね。以下、そのモヤモヤ考察。

  • 主人公がもう少し頼りない少年で人に甘えることを知っていたなら、事態はもう少し穏やかに進んだのではないだろうか。
  • 三者による危害、もしくはDVなどで、公の機関に相談しても具体的な解決策が得られないとき、どうすれば自分や周囲の人々を守れるのか。
  • 現在の刑法は、犯罪抑制、市民保護の役割に、はたして有効に機能しているのだろうか。

最後のモヤモヤに関して、作中で気になった一文を以下に引用。

殺人が、二件とも周到な計画に基づいていることが、相当、情状を不利にするであろうことは、わかっていた。何も考えずにナイフを抜いて人を刺すようなヤツの方が、まだ、可愛気があると見なされるのだ。

あまり刑法に詳しくないし、ひとくちに殺人といってもいろいろなケースがあるから何とも言えないけど、たしかに「周到な計画=悪」とは限らないよなぁ。うーん、人を裁くって難しい。

青の炎 (角川文庫)

青の炎 (角川文庫)