Radioheadの「Feral」を聞いていたら、頭から音が降って来て驚いた

先日、わりと唐突にRadioheadの新作「The King Of Limbs」が発売された。新作のためのレコーディングをやっていたのは知っていたけど、こんなに事前情報が流れないのはRadioheadほどのバンドでは珍しいことなんじゃないだろうか。今現在はまだ下記サイトでのデジタル音源販売限定で、CDのパッケージ販売は3月下旬とのこと。

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自分は、CDやアナログ盤、ニュースペーパー(新聞のようなライナー?)など各種オマケ付きの限定版を購入。オマケの送付は5/9以降とかなり先になり、今はまだ音源ダウンロードのみでMP3、WAVの二択になる(通常版、限定版ともWAVのほうが300円高い)。MP3をダウンロードしてみたところビットレートが320kbpsとかなり高く、個人的にはまったく問題ない音質だった。WAVからCDに焼いて保存版にしたい人以外はMP3版でも充分なのではと思う。

値段は送料込みで4,590円。決して安くないものの、前回のIn Rainbowsがそうだったように、今回のような「大手レコード会社が介在しない、限りなくアートスト直販に近いネット限定販売」だとなぜか値段の高さが気にならない。

その理由は、単に自分が熱心なファンってことなのかもしれないけど(とはいえ、それほど熱心なファンという自覚はない)、「直接アーチストにお金を払っている感」が、少々高い値段でも惜しみなく対価を払うインセンティブになっているとするなら、こうした販売形態が普及することは音楽業界の発展にとってとても健全なことだろうし、もっともっと広まって欲しいと思う。

とはいえ、そんな販売形態でそれなりの数を捌けるのは、Radioheadくらい知名度があり、なおかつ大手レコード会社を無視して活動を続けていく覚悟のあるバンドに限られるだろうし(たぶんそれは、今でもとても大変なことだと思う)、そのRadioheadでさえ新作のプロモーションが徹底されてように見受けられることを考えると、その他のあまり知名度が高くないアーチストの場合、まずはレコード会社やテレビ、ラジオ、雑誌など既存のメディアに頼らない宣伝手法を確率しなけりゃいけない。

「やっぱりネット活用でしょ」とか言って見たところでネットのバイラルマーケティングって既存メディアで金使うより必要とされるマーケティング技術が相当に高いのではと思う。実際、「The King Of Limbs」のネット・プロモーションでもTwitterでの渋谷ハチ公前発言でちょっとした誤算があったようだし(結果的には成功事例なのかもしれないけど、)。果たして今回のような販売形態が一般的になったとして、すぐさま全てのアーチストが恩恵を受ける、ということは考えにくく、むしろ、有名アーチストはネット直販で今までよりもっと効率的に稼ぎ、知名度に劣るアーチストは販売力の劣ったレコード会社や旧態メディアに頼らざるを得ない、というような二極化が起きてしまうような気もするけど、どうなんだろう。

ちなみに、パッケージの発売元はデジタル音源と同じホステス・エンタテインメント。てっきりCD単体での発売はメジャーなレコード会社になるのかなぁとか思ってたらパッケージもデジタルも既存の大手レコード会社を通さないとは、ちょっと意外だった。最近、自分の好きなアートストはめっきりメジャーレコード会社で国内盤を販売しなくなってしまった。なんとも時代が変わったものだと思う。

で、肝心の内容だけど、アルバム全編通してエレクトロニカ風味が強く、基本的には前作の延長線上にあると思う。正直、Radioheadが電子系に走った当時は、「悪くないんだけど、そっち系の本職の音からすると…」というような、ちょっと満たされない感があったのだけど、本作は「そっち系」のジャンルとしてすんなりと聞けて、「バンド至上の名作」とまで行かなくても確実に佳作に入る出来映えだと感じた。しかしながら、相変わらずダーク系かつ私小説的音楽ではあるので、Creepの「ガガッ」が好きなんだよねーという人はスルーしてもよいのかもしれない(そんな人、今は少数派だろうけど)。

なかでも、ものすごくピンポイントな感想なんだけど、アルバム4曲目に収録の「Feral」に入っている不気味なボーカロイド風味の音ネタが、明らかにヘッドフォンでの視聴を意識されてマスタリングされているらしく、頭のてっぺんのほうから音が聞こえてきて、初めてヘッドフォンで聞いた時、すごく驚いた。ちょうどその時、近所の安売り薬局店で買い物してたのでてっきり店内放送で不気味な音声が聞こえて来たのかと勘違いしてしまったくらいだ。

数年前から音源のマスタリングはデジタルファイルの視聴に最適化されているとか言われているように、「The King Of Limbs」もヘッドフォンで聞くことを前提にマスタリングされているのかな?と勝手に妄想(かなーり前にコーネリアスのアルバムでも同じような試みをしているアルバムがあったけど)。

デジタルで販売されること、そしてデジタルで視聴されることを前提にマスターされ販売される音楽、なんというか、音楽業界を取り巻く環境は、ほんとうに過渡期にあるんだなぁと、このアルバムを聞いてそんなことを考えた。

ザ・キング・オブ・リムス

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