船の墓場 - 砂浜で解体される大型船舶 ( Alang Ship Breaking Yards )

スカパーのナショナルジオグラフィックチャンネル「デンジャラス・ジョブ*1」で「シップレッカーズ」という興味深い番組を見た。レッカーというのは日本では車の移動屋さんの意で使われるけど、船のレッカー屋、つまり船の解体屋の話である。
なぜこの解体屋が危険な仕事なのかというと、解体する船がタンカーや空母などかなり大型になるにも関わらず、その解体方法がかなり大雑把なのだ。具体的にどのように大雑把かといえば、まず解体の施設がない。解体する場所はインドのアランにあるいたって普通の砂浜で、その砂浜に、最後の役目を終えた船が満潮を利用し故意に砂浜に乗り上げ、船が停止した場所がそのまま解体現場となるのである。
砂浜に乗り上げた大型船舶に何人もの職人が群がり、溶接器具やダイナマイトを駆使して船体を細切れに解体していく様は、かなりダイナミックであり、作業現場を見ているというより、まるで災害現場を目撃しているかのようでもある。
こんな調子の作業だから、犠牲者もたいへんな数になる。具体的な数は忘れてしまったけど、ナショジオの番組では「一日一隻、犠牲者一人」と繰り返しナレーションされていた。船を一隻解体して犠牲者一人で済まそう、ということらしい。逆に言えば、一人で済めばまだ「マシ」ということなんだろう。
番組の中で紹介されたある少年(たしか16才くらい)は、学校に行くのを断念し、兄の後を追ってアランにやってきたそうだ。なぜ学業を諦めてまでこんな危険な職場に来たかと言えば、学校に通って普通の仕事に就くより多くのお金が稼げるからである。なぜ給料がいいのか? それは、今まで大金をかけてきちんとした設備のある場所で船舶解体を行っていた先進国が、なるべく安い予算で解体するため、インドのアランをはじめとする解体屋に殺到するようになったから。解体屋の経営者は、解体で出る鋼鉄は現地のインドで貴重な資材となるし、また、労働を提供するという意味でも、この仕事はたいへん意義のあるものだ、みたいなことをコメントしていたけれど。
この番組を見た直後、「もしや、これってGoogle Earthで見られるんじゃないだろか?」と思って、インドのアランと思われる辺りをうろうろしてみたら、やっぱりあった。

世界的にもけっこう有名な場所らしく、海外のGoogle Earth座標まとめサイトにも登録されていた。KMLファイルのダウンロードはこちらから。
この画像を見ると、かなり大きな空母がまだ解体されていない姿で確認できる。Wikipediaの「船舶解体」の項に、「フランスが解体のためインドに輸出した空母クレマンソーが、アスベスト残留量が多いためインド政府により入港を断られる事態も起きている。」とあるが、まさかこのクレマンソーという空母なのだろうか。入港を断られて沿岸に放置?なんてことはないですよね。
「一日一隻、犠牲者一人」などといわれる職場で、命をかけてまで日銭を稼がなければ行けない状況、そして、そんな状況を利用してまで予算を浮かせたい先進国、船を解体する度に汚染されて行く自然環境。こうしてブログなんぞ書いてる今も、あの砂浜で、家族を養うため、または自分自身の野望を達成するため、命をかけて船を解体する人たちがいる。なんともやりきれない気分になってきます。
それにしても、こんな光景まで包み隠さず見えてしまうGoogle Earthってやっぱりすごい。そりゃあ、政府のお偉方も心配するわけですね。

*1:火山研究者、レスキュー隊、ダイナマイト解体屋、ロデオなどの危険な職業を紹介する番組。原題は「cheating death」。「反則の死」転じて「運良く死を免れる」という意で使われるらしい。英語の表現ってときに詩的です